字幕と吹き替え、どっちがいい?
映画を観るとき、字幕と吹き替えではどっちが楽しめるのだろうか?
意外と悩ましい問題である。自分なりに結論が出ていて、こういうときは字幕、こういうときは吹き替え、というガイドラインを持っている人ならいいが、そうでない人も多いのではないだろうか。
人それぞれ好きな方で観ればいいのだが、決めかねている人の参考のために少し検討してみる。
字幕と吹き替えの最大の違いは、役者の声が聴けるかどうか
役者の演技において、セリフというのは非常に大きな部分を占めている。そのセリフが吹き替えではまるまるカットされてしまう。字幕ならセリフの意味は分からずとも、声のテンポ、トーンで演技は伝わってくる。
よく、「英語を話せるわけでもないのに、演技なんて分かるわけないよ」という意見を聞くが、言葉はわからなくても、感情を理解することはできる。
なにも映画に限ったことではなく、日常生活でも口調で伝えたり、判断したりすることはある。優しい言い方、棘のある言い方、口調で判断する。飼い犬でさえ、口調で感情を理解するくらいだから、言葉がわからなくても、演技を理解しているのである。
映画の主役クラスになると、1本の作品でそれなりの報酬を受け取り、その作品に専念して役つくりをすることができる。
ロバート・デ・ニーロのように、作品のために体重を増やしてまで、役つくりすることができるのである。
それに比べて、声優は不利な状況である。1つの作品に数か月も専念することはできない。
声優で役つくりのために太ったなんてことは、竹達彩名さんくらいしか聞いたことがない。
そう考えると、吹き替えにして役者の声がカットされるのは、なんとももったいない話である。
「ダークナイト」のヒース・レジャーや「ヒットラー最後の12日間」のブルーノ・ガンツは字幕で観たい。
字幕は文字制限がきつい
字幕のデメリットは文字制限がきついことである。セリフの内容を大幅にカットせざるをえない。その点、吹き替えの方が制限は緩い。文字に換算すると吹き替えの方が1.5倍くらい表現できる。数字だけ見ると、吹き替えの圧勝だが、実際はそう簡単なものではない。
字幕は俗にいう「なっち語」を駆使して文字数を減らして対応する。「なっち語」というのは字幕翻訳者の戸田奈津子さんが多用する「・・・を?」、「・・・ので?」という表現である。
それでも、早口で話すシーンなんかでは、字幕は再現が難しい。一方、顔をアップで映しているシーンでは、吹き替えは口の動きに合わせるため再現性が低くなる。
また、多言語のシーンも吹き替えは苦手である。
例えば、フリンジというTVドラマのシーズン1の1話の冒頭のシーン。
乱気流に入り始めた飛行機の機内、ドイツ語の機内アナウンスが流れ、その後に英語のアナウンスが流れる。
乗客席に男性と女性。
女性がドイツ語で話しかける。
男性が「ドイツ語がわからないんです。デンバーから来たんです」
というシーン。
字幕では
「デンバーから来たんです」を「私はアメリカ人です」に改変している。
吹き替えでは
普通にアナウンスが流れ、ドイツ語のアナウンスがあったことは分からない。
会話の部分は、
女性「せっかく映画を観ていたのに」
男性「こういうときは見られないんですよ」
女性「飛行機は初めてなの」
男性「あぁ、そうですか」
と、まったく違う会話になっている。
これは、吹き替えが内容を大きく変えている一例で、字幕が大きく変えている例もたくさんある。
つまり、字幕も吹き替えも実際のセリフをかなり変えているのである。仮に、実際のセリフに忠実なのがいいとするならば、字幕と吹き替えのどちらがいいとは言い切れない。翻訳者の技量にも左右されるし、作品によって違うとしか言えないのである。
もうひとつ、傾向としては吹き替えの方が日本人に分かりやすくするための改変が多い。分かりやすさをとるか忠実さをとるかである。
目安として、より忠実なのは
- 早口のセリフが多い作品は吹き替え
- 話すのがゆっくり目な場合は字幕
なのだが、残念ながら早口のセリフが多いかどうかは観ないと分からない。
吹き替えのメリット
吹き替えにすると役者の演技が分からない。
セリフの再現性はケースバイケースで優劣つけがたい。
となると、吹き替えのメリットは何だろうか。
それは
- わかりやすさ
- 声優の演技
ここまで長々と書いてきて、あまりにも普通の結論
つまり、どちらがいいのかとなると何を重視するかで変わってくる。
- ストーリーや細かな設定、背景を重視する人は字幕
- わかりやすさを重視する人は吹き替え
結局、そういうことになるのかな。